空を飛ぶ人のリスク管理
ハンググライダーで空を飛ぶ方法を教える、ということを仕事にして15年ほどになります。
なぜこの仕事をしているかといえば、
「空を飛びたい」と思っている人 に、飛ぶことの楽しさを知ってほしいし、一緒に飛ぶ仲間と楽しく過ごしてほしいから、です。
もう少しまとめると
「空を飛ぶことで幸せになってほしい」
とでも言えるでしょうか。
ハンググライダーで空を飛ぶことは、本当に楽しいのです。
機体を組み立て、装備を装着し、風に向かって飛び立つ。
小さな翼に乗って、生身の体で風の中を飛ぶ。
着陸場に近づいたら旋回して高度を下げ、速度を落として鳥のように降りる。
飛んでいる全ての瞬間が、生きていることを実感させてくれます。
同時に、ハンググライダーで飛ぶことは、リスクを伴います。
この「リスク」とはどういう意味でしょうか。
一般には「危険」という言葉と同じように扱われているようです。
もし、ハンググライダーで飛ぶことが単に危険な行為ならば、やらない方がいいです。
楽しむためにやっていることで、怖い目に遭ったり、事故を起こしてケガをしたり、命を落としたりしては、幸せとは言えません。
しかし、リスクを適切に管理できているパイロットは、10年も20年も、あるいはもっと長い間、事故を起こさずに飛び続けています。
どういうことでしょうか?
「リスク」とは「危険」ではなく「不確実性」という意味に解釈しています。
気象条件が厳しいとき、例えば風向風速の変化が激しいとき、離着陸のリスクは増します。
自分の技量で上手く扱えるかわからない高性能機に乗ると、リスクは高くなります。
いずれの場合も、絶対に危ない目に遭うとは言い切れません。しかし、うまくいかないかもしれない、という可能性が高くなります。
目に見えない空気の中を飛ぶので、どうしても予測できないことは起こります。
つまり、偶然や運の要素はゼロにはなりません。
それをできるだけ少なくして、確実にできることの割合を大きくしていくことで、
安全に飛び、無事に着地できることを目指しています。
危ない状況になったとき、難しい技を繰り出して切り抜けると、人は凄い!と思います。しかし、本当に技量の高い人は、そもそもそんな危ない状況を作らないのです。
反射神経や腕力に頼らず、名人芸的な技を使わず、毎回確実にできる技術を使って、当たり前のように安全に降りてきます。
余裕を持って飛べる気象条件を選ぶ。
使いこなせる道具を選び、しっかり整備して使う。
周囲の状況に常に注意を払う。
基礎技術の練習を欠かさない。
「自分にはまだ見えていないものがあるかもしれない」と考え、学び続ける。
こうして不確実性を少なくしていくことが「リスク管理」です。
私が目指しているのはこういうことができるパイロットであり、皆さんにもそういうパイロットになってほしいと思っています。
次回から、不確実性を小さくするための具体的な技術を解説していきます。
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