ハンググライダーのはじめかた
ハンググライダーをやってみたいと思ったとしても、
どうやって始めるかがわからない、という方が多いと思います。
また、私自身がそうだったように「ものすごいマニアがやるもの、自分にはできそうもない」と思うのが普通だと思います。
ここでは、ハンググライダーで飛んでみたい方に、どうやって始めるのかを解説します。
1.必要な体力・体格
2.必要な心構え
3.費用はどのくらいかかるか
4.向き不向きはあるか?
5.スクールを探す
必要な体力・体格
1.必要な体力・体格
ハンググライダーで飛ぶのに、特別な体力は必要ありません。サッカーやバスケのように走り続ける心肺能力はいりませんし、50kgのバーベルを挙げるような腕力もいりません。
ただし、機体の重量は入門機で20~27kgほど※なので、これを持ち運ぶだけの体力は求められます。
※機体の大きさによります。よく使われる機種では、大中小の3サイズがあり、おおむね、体重50kg未満の方は小サイズ、50~70kgは中サイズ、70kg以上は大サイズを使います。
とはいえ、離陸動作に入れば機体は浮き始めて軽くなりますし、練習を始めればだんだんと体力はついてきますので、この重さだけを読んで、ここから先を読むのをやめないでくださいね。
「体重が重いと飛べないのでは?」と思っている方は多いようですが、実はハンググライダーは体重が重い方が有利です。体重が110kgくらいまでならば乗れる機体はありますのでご心配なく。
逆に、パイロットが軽すぎると機体が不安定になるので、40kg未満の方は残念ながら山から飛ぶのは困難です(練習場で浮いて楽しむことはできます)。
身長は、150cmほどはあった方が良いでしょう。機体の操縦装置であるコントロールバーを肩に載せて持ち上げるのに、最低限必要な身長がこのくらいです。
年齢についても聞かれることがあります。
自分で飛べるように練習する場合、前述の体格を満たせば小学生でも可能です。
上限は決まっていませんが、私がお教えした中では、60歳前後で初めてハンググライダーに触れて、山から飛べるようになった方がこの10年で4人います。
体力は個人差が大きいので一概には言えませんが、練習場ではかなり体力がいりますので、さすがに60代後半から始めるのは難しいと思います。
まとめると
身長150cm以上
体重40~110kg
20~30kgほどの装備を持ち運ぶ体力
年齢は特に限定しないが入門するなら60歳くらいまで
といったところです。
2.必要な心構え
ハンググライダーで飛ぶのに、体力・体格よりもこちらの方が重要です。
ここで言っておかなければならないのは、ハンググライダーは危険を伴うスポーツだということです。間違ったことをすれば重傷を負ったり、死亡・後遺障害につながることもあります。このため、技術と知識を身につけることはもちろん、リスクを最小限にして楽しむための心構えが必要です。
では、必要な心構えとは何かというと、第一に、自分の意思と責任で飛ぶ、ということです。
練習は機体をかついで地面を走るところから始めますが、上達してくると空中を滑空するようになります。地面から2mも離れてしまえば、もうインストラクターは直接手を出して助けることはできません。離陸して、まっすぐ飛ばし続け、着陸するまで、本人が責任を持ってやるしかないのです。
誰かが助けてくれると思わず、上手くいかなくても人のせいにせず、自分で何とかするという気持ちは常に必要です(もちろん、困った時は助け合う文化がありますのでご心配なく)。
もう一つは、好奇心。
地面に足をつけて生活してきた人にとって、空中で経験することはほとんどが未体験の感覚です。思い通りに操縦できるようになるまで、何度も練習に通う必要があります。
このとき原動力になるのが、新しいことに対して、何でもやってやろう、知ってみたい、と思う気持ちです。
インストラクターの言うことをよく聞くのは大事ですが、言われたことだけをやるという受け身の姿勢ではなかなか上達せず、飽きてしまうかもしれません。
「こうやったら機体の組み立てが早くできるな」と工夫してみるのも大事(早く組み立てれば、そのぶん練習機会が増える)。
他の練習生のやり方をよく観察して、上手なところは真似し、失敗するのを見たらその原因を考える。
インストラクターが「いい風だよ」というのはどんな状況のときなのかを観察する。
何にでも好奇心を持って自分で考える癖をつければ、練習そのものが楽しめるようになります。
楽しいものは続けられるし、上達も速くなります。
3.費用はどのくらいかかるか
ここが皆さんの関心のあるところでしょう。
ハンググライダーにかかる費用には以下のものがあります。
・スクール料金
・連盟の登録料金
・機材の購入にかかる費用
・フライトエリア(離陸場、着陸場)やクラブハウス等の施設利用料
・自宅~スクールの交通費
・スクール料金は、各スクールによって異なります。詳細は各スクールのホームページで確認しましょう。
・連盟とは、日本ハング・パラグライディング連盟(JHF)のことで、ハンググライダーとパラグライダーの統括団体です。この団体への登録料が年間7000円です。これには第三者賠償保険料が含まれていて、ハンググライダーで飛んでいて他人にケガをさせたり他人の物を壊したりした場合に保険金が支払われます。
・機材の値段は、空を飛ぶものなので元々高額ですが、昨今の円安でさらに高くなってしまいました。
ただし、低い斜面での練習中はスクールの機材をレンタルし、山から飛ぶためには自分の機体が必要になる、というスクールが多いので、練習を続けていきながら費用を工面していくことができます。
山から飛ぶための機材として、
・ハンググライダーの機体 新品の入門機が約90万円(2024年8月時点)。中古品が入手できることもあります。値段は機体の状態により、安い物は30万円以下です。もちろん、飛んで危ないような物は販売しませんが、古くなった機体は沈下が速く上達に時間がかかる傾向があります。
・ハーネス 新品で約12万円。パイロットが着る安全帯のようなもので、これを使って機体とつながります。素手でつかまっているわけではありません。中古品が出ることはありますが、前のオーナーと体格が一致している必要があります。
・ヘルメット 約3万円。スカイスポーツで使えるだけの安全規格を通った物を使います。
・緊急用パラシュート 約10万円。空中で機体が破損した場合に使うパラシュートです。使う可能性は非常に低いですが、山から飛ぶ場合には必須です。
・無線機 約3万円。航空レジャー用の無線機です。
・計器類 高度計、昇降計(上昇・下降を音で教えてくれる)、スピードメーター等。入門用の高度計/昇降計は数万円から。スピードメーターは8000円ほど。
・タイヤ コントロールバーに装着して、着陸が上手くできなかった時には転がることで衝撃を逃がしてくれます。8000円~30000円程度
・フライトエリアや施設の利用料はスクールにより様々です。
安ければいいかというと、そうとも限りません。インストラクターの人件費や、離陸場・着陸場の賃料や維持管理費もあります。料金が安ければ、スクールで指導を受けられる日が限られることもあります。クラブメンバー(あなたも含まれます)が自分たちで草刈り等の維持管理をするのが前提になっている場合もあります(その方がいい、という心意気を持つ人は、私は好きです)。
・自宅~スクールの交通費
ハンググライダーのスクールは、たいがい人口の少ない場所にあります。離着陸に広い土地が必要であり、特に着陸場の周囲に建物が沢山あるのは好ましくないので、どうしても都会から離れた場所になります。
自分の車で通うか、電車の駅まで送迎をしてもらえるか、といったことを、スクールのホームページで調べておきましょう。スクールの施設や周辺に宿泊できる場合は、泊まり込みで2日以上続けて練習することで往復交通費を節約できます。
ハンググライダーで飛べるようになるための費用は、以上のようになります。
新品で全部そろえると、機材だけで125万円程度。うまい具合に中古品を集められたとして、60万円くらいでしょうか。
よく「ちょっとした車なみの値段ですね」と言われます。
車には趣味性もありますが、主に実用のための道具です。
一方、ハンググライダーは完全に趣味のための道具です。
なので、経済合理性で考えることはなじまないのです。費用対効果で損か得かといえば、ハンググライダーで飛んで経済的に得をすることはありませんから。
しかし、空を飛ぶことで得られる爽快感や満足感は、他の方法では絶対に得られないものです。
「空を飛んでみたい」という好奇心を満たすためにこのくらいの金額をかけてもいいと思う方は、ぜひハンググライダーのスクールに入ってください。何年やっても飽きることのない、素晴らしい趣味ができます。面白くて優しくて強い仲間が沢山できることも保証します。
4.向き不向きはあるか?
まず、「必要な体力・体格」で説明した範囲内の身体のサイズでないと、残念ながらハンググライダーはお勧めできません。
また、「必要な心構え」の説明とも重複しますが、「お金払ってるんだから(他人がやってくれて当然)」という考えは通用しません。もちろん、スクールは料金に見合うだけの機材を用意し、技術を教えるものですが、その前提として、自分の安全は自分で守るという気持ちを本人が持っていることは必要です。依存心が強かったり、うまくいかないときに他人のせいにしたりする人は、残念ながら向いていません。
もう一つは、忍耐強さ。というのも、自然が相手のスポーツなので、やりたいと思ったときに必ずしも良い天候にめぐまれるとは限らないのです。雨が降ったら屋外での練習はできません。晴れか曇りで、練習場に適した風向きの、強すぎず弱すぎずの風が吹いていることが必要です。休みを作って練習に行ったものの、天候が合わず、実技練習ができずに終わる、ということもあります。次はできるさ、と思える気持ちがないと、続けるのは難しいでしょう。
他者とかかわることが極端に苦手な人も、難しいでしょう。というのも、ハンググライダーは空中に出てしまえば一人で何でもできなければなりませんが、地上では他者との協力が不可欠だからです。
では、向いている人はどうでしょうか?
ずば抜けてなくてもいいのでそれなりの体格・体力がある
好奇心旺盛で、やりたいことに熱中できる
自然相手のことなので、良い条件に恵まれるまで気長に待てる
仲間がほしいと思っている
全部当てはまらなくてもかまいません。まずは飛びたいという気持ちが大事です。
5.スクールを探す
ここまで読んで、ハンググライダーやってみようかな、と思った方は、スクールを探しましょう。
ハンググライダーは独学できるものではありません。50年ほど前、1970年代までは、見よう見まねで機体を作り、イチかバチかで飛んでいた方が沢山いました。そして、沢山の方が亡くなってしまいました。同じことを繰り返しては、亡くなった先輩たちに申し訳がたちません。飛び方も教え方も確立されていますので、資格のあるインストラクターに習いましょう。
JHF(日本ハングパラグライディング連盟)の登録スクール一覧を参考にしてください。
https://jhf.hangpara.or.jp/school/index.html
ここで残念なお知らせなのですが、ハンググライダーを教えているスクールはとても少ないのです。
日本中で10軒あるかないかという少なさです。
なので、お近くのスクールに行きましょうといっても、無理な注文だったりします。
それでも飛びたい、という情熱と行動力で無理を無理でなくした方もいます。
以前、九州の大学生が、私のいる茨城のスクールに来ました。夏休みに1か月、12月に2週間練習して、山から飛べるようになりました。この方は当時大学4年生で、就職先は関東に決まっていました。翌春無事に大学を卒業して関東に引っ越し、現在もハンググライダーを続けています。
またある人は、勤め先は関西の会社なのですが、リモートだけで勤務できる部署に移ったので茨城県に引っ越してスクールに通い始めました。また部署が変わると出社の必要が生じるかもしれない、ということで、時間を作ってはスクールに通ってきてくれています。
趣味のスポーツを習おうとするのにここまでの行動力を要求してしまうのは、ハンググライダーを生業とする者として申し訳なく思っています。
全国どこでも、少なくとも基礎の技術くらいは習得できる環境を作れないものかと、構想していることはあります。近い将来に実現したいと、アイデアを温めています。
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